梨穂・佳奈

佳奈の行方 - 2


 翌日。佳奈ちゃんは早めにプールに出て体を温め、万全を期してバタフライの計測に臨みました。しかし、その結果は佳奈ちゃんが予感していた通りのものでした。1、2、3年のそれぞれのトップに大差を付けられて、最終的に部内6位でしかなかったのです。
(特待生落第だわ...)
もう佳奈ちゃんは涙も出ませんでした。コーチや先生からどんなひどい事を言われるか見当もつきません。梨穂ちゃんも佳奈ちゃんの気持ちを察して、黙りこくって帰り道を歩きました。
 その晩、梨穂ちゃんは玲子さんに電話をかけました。
「...そんなふうなんです。佳奈ちゃん、どう考えてもヘンです。いまのままじゃ可哀相すぎます...」
「そうね...今度の土曜日、一緒にこちらに来られる?」
「佳奈ちゃんに話してみます。」
「そうして。ちゃんと検査して対策たててあげられると思うわ。」
「そうですか!お願いします。」
梨穂ちゃんは受話器を置くと、すっかり問題は解決したような気分になりました。

 佳奈ちゃんは梨穂ちゃんの言うことを素直に聞いて、玲子さんのところに一緒に行くことになりました。医院に着くと、すぐに玲子さんは
「じゃ、少し検査するからこっちに来て。」
と言って、奥の部屋に佳奈ちゃんを連れて行きましたが、すぐに戻ってきました。
「しばらく検査に時間がかかるから、その間に梨穂ちゃんの診察もしておこうね。上半身脱いで。」
梨穂ちゃんは言われるまま服を脱いで、椅子にかけました。玲子さんは少しだけ聴診器を使った後、触診を始めました。
(あ、この感じ...)
膝を怪我して薬を塗ってもらった時と同じ、いい感じが伝わってきます。
(...あ...きもちいい...)
ゆっくり押したり、軽く叩いたり、すばやくこねたり...
玲子さんが触れたところが、ぼーっと熱っぽく感じられます。目を閉じていると、胸・お腹・背...触られた場所の一つ一つに、気持ちいい火照りが残っているのが分ります。
(...もっと触って欲しい...)
そのとき、一段と強い感触がおへその下から伝わりました。
ちょっとびっくりして梨穂ちゃんが目を見開くと、玲子さんが梨穂ちゃんの顔を見詰めていました。急に梨穂ちゃんはドキドキしはじめました。玲子さんは視線を落としてもう一度おへその下に曲線を描くようにそっと触れると、
「梨穂ちゃん、スカートも脱いでベッドで仰向けになってくれる?」
と言います。
梨穂ちゃんは夢見心地で(もっと触ってもらえるんだ...)と密かな期待を持ちながら、スカートを脱いで、パンツだけでベッドに仰向けになりました。
玲子さんは
「ちょっとだけ、ごめんね」
というとパンツに指をかけてぎりぎりまで下げました。梨穂ちゃんのお腹は丸見えです。
(...うわぁ...こんなの...恥ずかしい...)

[裸でベッドで仰向けになった梨穂] by JAGI
玲子さんは梨穂ちゃんのおへそのあたりに左右の人差し指で触れると少し指を突っ込むように押します。そしてほんの少し下に指をずらして同じ動作を繰り返します。そうやって、まるで梨穂ちゃんのお腹の中にあるものを探りあてようとするようにていねいに押したりこねたりし続けました。
もう梨穂ちゃんはたまりません。玲子さんの指が少し肌にめり込むたびに、全身がピクピクするほど感じてしまうのです。玲子さんの指はパンツに引っ掛かる所まで進んで、またおへその方へ引き返していきます。梨穂ちゃんはあんまり気持ち良すぎてもう何も考えられないようになってしまいました。
(...なんて気持ちいいんだろう...このまま眠っちゃいたい...)
もうろうとしながら、梨穂ちゃんはお腹全体に広がった熱っぽい感じが、下へ移動していくような不思議な感じを味わいました。その感覚に酔いしれいていると、なんだか股間にどろっとした感じがします。
(あれっ?なに、これ)
パンツの中で染み出した何かが、ゆっくりと伝い落ちていくようです。
(...あぁぁ、お漏らししちゃったの、わたし!?)
「玲子さん、すみません、トイレに行きたくなっちゃいました...」
「うぅん、大丈夫、おしっこなんかじゃないわ。そのままにしていて...」
まるで梨穂ちゃんがどんな感じでいるのかすべてお見通しのような言い方です。玲子さんはガーゼを取ると、パンツの中に手を入れてきました。
(えぇっ?うそーっ、そんなことまでされるなんて...)
玲子さんは染み出してくるものをガーゼで捉えると、そのままそっと押さえました。
びくーんっ!!(あーっ、やだ!!すごいっ...)
押されられた瞬間、梨穂ちゃんは全身を硬直させて堪えなければいけないほどの衝撃にさらされました。あの湿り気はとまるどころか、ますますドロドロと伝い落ちてきます。 (あぁっ、だめ、こんなの!!染みちゃうよ!!)
その時、また梨穂ちゃんはあの甘い匂いを強く感じました。ベッドの上の梨穂ちゃんに覆い被さるような姿勢で玲子さんはガーゼをそこに押さえつけています。しかしふと手を離すと玲子さんは余分にガーゼをとってパンツの中にあてがって、ようやく梨穂ちゃんの身体から手を離しました。
「はい、おつかれさま。もういいわよ、起きて?」
梨穂ちゃんはクラクラしながら起き上がりましたが、ベッドから立とうとするふらついてまたベッドに座り込んでしまいました。
「あ...なんかヘンです、わたし...」
「ごめんね、ちょっと念入りすぎたかしら?敏感なのね。」
感じていたことを指摘されて、梨穂ちゃんはまた顔を赤くしました。
「もう服着ていいわよ」
「はい...」
梨穂ちゃんが服を着ている間、玲子さんは足を組んでカルテを書いていました。梨穂ちゃんは玲子さんの横顔を見ていると、ドキドキは収まるどころか激しくなってきます。梨穂ちゃんはどうしても自分の気持ちを打ち明けずにはいられない気持ちになってきました。
「玲子さん...」
「はい?」
「あの...わたし、玲子さんのことが好きです。憧れてます。」
「え?どうしたの突然。」
「前は、玲子さんのことお母さまだと思おうとしてたけど、違ってました。お父さまが死んでから、ずっと玲子さんにお世話になって...こうしておしゃべりできる機会も増えて...そうしたら、玲子さんってお母さまというより、お姉さま、って感じだな、って...」
玲子さんはペンを止めて梨穂ちゃんの方を向きました。
「ありがとう、嬉しいわ。わたしも梨穂ちゃんとお友達みたいでいたいと思ってるのよ。」
「あぁ...すごくうれしいです。玲子さんって、とってもきれいで、女らしくって、頭が良くって。わたしにないものが全部ある、って感じで本当にうらやましい。」
「梨穂ちゃんだってかわいいわよ。クリクリの目、つるつるのほっぺ。」
「そんな...わたし、大人になりたいんです。玲子さんみたいな、女っぽい大人に。小学生のまま身長延びなくて、胸もないなんて、ほんと寂しいですよ。学校の友達も、みんなどんどん女っぽくなっていくのに、わたしだけ変わらない。おいてけぼり。
...佳奈ちゃんも...いま大変みたいだけど...胸が大きくなって不便だなんて、わたしには信じられない。佳奈ちゃんみたいに背が高くてカッコイイ子は、わたしとは別世界の人なんだ...わたしみたいな子の悩みは分からない」
「梨穂ちゃん、そんな人をうらやむようなことばかり言っちゃいけないわ。あなたはあなた。あなただけのいいところがいっぱいあるの。自分にないものばかり求めちゃだめよ。完全無欠の人なんていないんだもの。」
「...でも...わたしも普通の女の子みたいに...人並みになりたいです...特別なことじゃなくって...」
梨穂ちゃんの言葉は切実でした。玲子さんは黙って梨穂ちゃんの顔から、細すぎる腕へ視線をずらしました。そして、こう言いました。
「...あのね、梨穂ちゃん...これは慎重に調べないといけないけど、あなたをちょっとだけ、大人に近づけることはできるかも知れない。お薬とか使ってね。」
梨穂ちゃんはその言葉を聞いた瞬間頭がクラっとするほどの驚きを感じました。
「...ほんとうですか、それ!」
「...ほんとうよ。わたしは大学病院にいた頃、そういう研究をしていたの。身体の特定の部分の成長がどう調整されているか、って研究。たとえば、女の子はだんだん背が伸びて身体がある程度充実してから、胸が膨らんだり、初潮があったりして、子供から女になる準備をするでしょ?そういう変化ひとつひとつがどう管理されているか調べたの。そして、それを人間の手で調整することができることも分った。」
「じゃ、わたしも子供のままじゃなくて、大人になれるんですか?玲子さんみたいに女っぽくなれるんですか!?」
「...そうしたい?」
「ぜったい!大人になりたいです!!なれるんですね?」
玲子さんは窓の外を眺めながら独り言のように言いました。
「...そう...なれるわ、きっと...あなたのお父さまは背が高くて、とても立派な方だったし...ほんとうに素敵な方だった...娘のあなたにはきっと素質がある...」
梨穂ちゃんは玲子さんの言っている意味がよく分りませんでした。でも、お父さまが背が高くて、がっちりした体格だったというのは本当です。
「玲子さん、どうかわたしを、大人にしてください!!お礼はします。できることならなんでも。お願いします!!」
玲子さんは梨穂ちゃんの顔を見て、微笑みました。
「梨穂ちゃん、いまはわたしがあなたの保護者よ。あなたのためになることならなんだってするわ。もう一度聞くわよ。梨穂ちゃん、あなたお薬を飲んででも大人になりたい?それって本当は不自然なことなのよ。無理なことをするのよ。それでもそうしたい?」
「もちろんです。わたし、どうしても大人になりたいんです!」
玲子さんは梨穂ちゃんの言葉を聞いて、一瞬引きつったような表情を見せました。そしてうつむいて机に向かい、少し考えてからさらさらとカルテに書き加えました。
「...梨穂ちゃん、あなたの気持ちは分ったわ。じゃ、準備するから、来週中ごろにお薬とりに来て。」
「ほんとうですか!?...うれしい...ほんとうなんですよね...わたしも大人になれるんですよね?...」
「そう、きっと...間違いなく立派に...成長するわ。」
梨穂ちゃんはまるで夢を見ているような気分でした。もう自分は大人にならないで、ずっとこのままなんだと思い込んできたのに、大人になるチャンスが与えられたのです。
カルテに書き込んでいる玲子さんを見ると、さっきまでにましてその横顔が輝いてみえました。

 玲子さんはとても念入りに佳奈ちゃんを診察して、お薬を出してくれました。玲子さんがとても親身になって佳奈ちゃんの言うことを聞いて、はげましてくれたので佳奈ちゃんは嬉しくて涙が出そうになりました。佳奈ちゃんは週に2度ずつ玲子さんの所に通うことになりました。

 梨穂ちゃんも玲子さんの薬を飲み始めました。そして、その効果は驚くほど早く表れました。飲み始めてほんの3日で梨穂ちゃんは乳首のしこりを感じて、さらに5日後には腋や股間に毛が生え始めたのに気づきました。あまりの変化の速さに梨穂ちゃんはとまどいましたが、それ以上に体の中から力が湧いてくるような不思議な感覚のせいで、とても気分は満ち足りて快適そのものでした。

 佳奈ちゃんのほうは、経過は思わしくありませんでした。胸の発達は止まらず、ますます乳輪が盛り上がって乳首も尖り、おっぱい全体はパンパンに張りつめました。水着を着るとおっぱいの半分ほどが脇からはみだしてしまいます。誰が見てもこれまで通り泳げる姿ではありません。実際、飛び込みではおっぱいで水面を打ってしまうし、クロールで泳いでいても姿勢が崩れてしまいます。おっぱいの盛り上がりへの水の抵抗が大きくてタイムは大幅に落ち込みました。佳奈ちゃんはコーチたちの叱責と、自分自身の責任感で必死のトレーニングを続けましたが、しだいに周囲の目は冷たいものに変わっていきました。

 これまでは痩せこけていた梨穂ちゃんの胸ですが、しだいに乳輪は盛り上がり、やがて胸全体が柔らかに膨らみ始めました。そして、薬を飲み始めて11日目の早朝、ついに梨穂ちゃんは初潮を迎えたのです。
 この日、日曜日の朝、初めての経血をトイレで発見したとき、梨穂ちゃんは言葉に表せない感動を味わいました。遅い初潮ですが、梨穂ちゃんにとってはかけがえのない宝物を手にしたような気持ちでした。
 佳奈ちゃんはこのことを聞いて梨穂ちゃんにおめでとうといいました。仲良しの梨穂ちゃんがこんなに喜んでいることですから、いっしょに喜んであげるのは友達として当り前のことです。
 でも、実は佳奈ちゃんはちょっとだけ不安を感じていたのです。というのは、梨穂ちゃんの身体の変化があまりに早く進んでいることと、ちょうどいま自分の身体が「女」としての成長が止まらなくなってしまっていることと、どうしても重ねあわせてしまうからです。

 次の日の練習中、事件が起きました。
 練習の締めくくりにバタフライで400mをこなした佳奈ちゃんが、プールから上がろうとしたときです。プールサイドにいた1年生部員が佳奈ちゃんの姿を見て叫びました。
「あぁっ先輩っ、胸っ!」
佳奈ちゃんは反射的におっぱいの上に両手を伏せました。すると、手のひらは直に乳首に触れてしまいました。バタフライの大きな動作のために水着が胸の谷間に食い込んで、乳首が丸出しになってしまっていたのです。佳奈ちゃんはあわてて水に潜って水着を直しましたが、うまくオッパイ全体を隠すことが出来ません。佳奈ちゃんは諦めてプールから上がり、胸を両腕で隠しながら小走りに部室へ急ぎました。しかしその途中信じられないような言葉が佳奈ちゃんには浴びせかけられました。
「いやぁーねー。ここって水泳部だよねぇ。ブタが来るフィットネスクラブじゃないのに。」
「遅い人がピチピチの競泳水着でバタバタしてももみっともないだけなのにねー。」
「ほんと、あんなデブパイ見せられても気持ち悪いだけだわー。」

佳奈ちゃんの活躍のせいで、日陰になっていた3年生部員の何人かはずっと佳奈ちゃんに歪んだ感情を持っていました。それでも圧倒的な力量の差のせいで何も文句を言えなかったのですが、最近佳奈ちゃんがどんどんタイムを落とし、とうとうこんな失態を見せたことがきっかけになって、ついに先輩たちのイジメが始まったのです。
 この日を境にして佳奈ちゃんはイジメの標的にされるようになりました。部室に行くとまず
「あらオッパイもお腹も大きくなったわね、何ヶ月なの?」
「ここはマタニティスイミング教室じゃありませんわ」
「いくら水着がきついからって、裸で泳ぐのはやめてくださいね」
などとからかわれ、練習のために着替えると水着が切り裂かれていたり、下着を隠されたり。ロッカーに置かれていた私物も外に放り出されました。陰湿な仕打ちに梨穂ちゃんは怒りましたが、心無い先輩たちの仕打ちに抵抗できる部員は誰もいませんでした。みんながイジメを見て見ぬふりをしたのです。

[イジメにあう佳奈...水着の肝心な部分を切られる] by JAGI

佳奈ちゃんはコーチに相談しに行きましたが、コーチの反応もまったく冷め切ったものでした。
「...で、どうしたいの?」
「...しばらく休ませてください。このままじゃ練習に出ても何にもなりません。」
「別にいいわよ。勝手にしなさい。ひとつ言っておくけど、一度休んだ人が戻ってきたことはないんだからね。そのつもりで。」
この言葉でコーチにまで見放されたことを知って、佳奈ちゃんはすべてを諦めました。

 こうして佳奈ちゃんは水泳部を休むことになりました。佳奈ちゃんは大きくなりすぎた胸をもてあましながら学校の時間をただ虚しく過ごしました。

大きくなりすぎた胸のせいでセーラー服を着ることもできなくなり、トレーニングウェアで授業に出ているうちに、佳奈ちゃんのクラスの友達の態度までおかしくなってきました。佳奈ちゃんを見るたび、みんなが奇妙なものを見るような目をするのです。確かに、自分の頭よりもずっと大きいオッパイをふたつ胸につけた佳奈ちゃんの姿はまったく奇妙としか言いようがありません。そんな風に見られるのが佳奈ちゃんはとても悲しくて、教室ではいつも席についたままふさぎ込むのが続きました。そんな佳奈ちゃんの様子を見て、ますますクラスの友達は佳奈ちゃんから遠ざかっていきました。梨穂ちゃんだけが佳奈ちゃんの心の支えとなっていました。

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